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木下トロフィー争奪フィギュアスケート大会レポート


木下トロフィー争奪フィギュアスケート大会は2021年に始まり、今年で4回目を迎えた。

当初は京都スケート連盟所属または府内在住者のみを参加資格とする地域限定の大会であったが、2022年シーズンから前シーズンの全日本選手権または全日本ジュニア選手権に出場した選手が資格要件となり、以来拠点選手にとどまらず毎年全国からトップレベルの選手が集まりシーズンの初戦を飾っている。

8月3日(土)、4日(日)の2日間にわたって木下アカデミー京都アイスアリーナにて行われた本大会の模様を種目ごとにレポートしてみたい。



ジュニア男子


ジュニア男子は4人が出場。木下アカデミー所属でジュニア2年目の高橋星名がSP66.36、FS124.42で共にトップに立ち、合計190.78で優勝した。

SPは映画『The Greatest Showman』より『This is me』。

冒頭の3Aはステップアウトとなったものの残りのジャンプは手堅く着氷。

高橋が持つ天性の煌きを存分に生かすようなプログラムで、イーグルやニースライドといったムーブメントごとに笑顔を見せ滑る姿が特に印象的だった。

FSでは一転、氷をイメージするような寒冷色の衣装に身を包み、ビバルディの『四季』より『冬』の世界を演じた高橋。

3A2本と4T1本を盛り込んだ高難度の構成。

冒頭の3Aはステップアウト、4Tは早めに両足で降り惜しくもダウングレードの判定ではあったが、その他のジャンプは手堅くまとめた。

第2楽章の穏やかな音色に乗せて滑る中盤では、イナバウアーやスパイラルなど象徴的な動きを取り入れたコレオシーケンスに続いて3A―2Tを決め、そこからすぐさまシットスピンに入って難しい出をこなすなど技術力の高さを伺わせた。

今月末にはJGP初戦ラトビア大会に出場を予定。初のJGP、世界へのお披露目が楽しみだ。


2位はジュニア3年目の蛯原大弥。SPの曲目は『Spanish Flame』。

本大会が初披露だったが、鮮やかなフラメンコの衣装を身にまといポーズを取る姿は既に様になっていた。

公式練習では何度も着氷していた3A。

本番では惜しくも転倒してしまったがその他のジャンプはしっかりまとめた。

今季は同じジュニアの中田璃士もSPでフラメンコの楽曲を使用している。

それぞれどのように完成させていくかも見どころのひとつだろう。

FSの使用楽曲は映画『アバター』のOST。 

3A2本と4T1本という先を見据えた構成で、それぞれ回転不足やダウングレードだったものの転倒することなく降り、最後の3Fが2回転になってしまった他は全体的にまとまった演技だった。

JGP第2戦チェコ大会へのエントリーが既に発表されている蛯原。

昨季のJGPでは3位表彰台に登った実績があるだけに、今季もそれ以上の活躍をぜひ期待したい。


3位の松本悠輝はジュニア1年目。

出場選手の中ではひときわ小柄だが、手足を目いっぱい使った機敏な動きが印象的だった。特にFSの『Hallelujah』に組み込まれたクリムキンイーグルやハイドロは目を引くものがあった。

要素の中では3Lz3Tのコンビネーションジャンプを入念に練習する姿が見られたので安定が待ち遠しいところだ。

4位の佐藤和那はSP、FS共に3Aを入れた意欲的な構成。

特にFSでは2本入れるなど果敢な挑戦を見せており、伸び盛りの年代であるだけに今後の成長が楽しみだ。



ジュニア女子


ジュニア女子は出場者の半数がジュニア合宿の参加者というハイレベルな顔ぶれ。

シーズン序盤ながら順調な仕上がりを見せる選手が多く見られ、その中で世界ジュニア王者の島田麻央が安定した演技で本大会3連覇を果たした。

SPはミュージカル『Wicked』より『Defying Gravity』。

作品には主人公がこの曲に合わせて空を飛ぶシーンが出てくるが、プログラム中にはまさにそのような場面を体現するかのような空を飛ぶような振付も取り入れられていたのが印象的だった。

黒に緑のアクセントの入った衣装をまとった島田は、すべての要素をミスなくまとめ、シーズン初戦にもかかわらず70.88という点数を叩き出した。

特に終盤のスピン2つは圧巻で、解けない魔法の世界にいつまでも浸ってしまうかのような感覚さえもたらした。

FSは本大会初披露となった『Mado Kara Mieru』。

壮大なオーケストラをバックに複数の女性ボーカルと男声合唱が美しい声を響かせる印象的な和の曲だ。

正岡子規など4名の著名な俳人の句がモチーフとなったその歌詞においては、人生が季節のうつろいに例えられており、幼い子供が成長し年老いやがて死を迎えそしてまた新しい命が再生するまでの姿と重ねられている。

FSの島田の衣装は春を思わせるようなピンク色と萌黄色。

まさに春に例えられるような若さの真っ只中にいる彼女にぴったりの衣装と言えそうだ。

冒頭の3Aは回転不足、4Tは2Tとなってしまったが、それ以外の要素はまとめ、初戦にもかかわらず202.55点という早くも200点超えの点数で圧倒的な力を見せた。


2位は中井亜美。

SPでは映画『シェルブールの雨傘』の世界観を情緒的たっぷりに演じ、緩急や余韻からは悲恋のせつなさ、はかなさが良く伝わってきた。

FSはデヴィッド・ウィルソン振付の『シンデレラ』。

主人公を象徴するような水色の衣装で今度は優雅なプリンセスに変身した。

冒頭に果敢に挑戦した3Aは惜しくも転倒してしまったが、昨シーズンからの復調を十分に感じさせる良い演技だった。


3位は上薗恋奈。

SPではコンビネーションジャンプでの転倒が響き10位と出遅れてしまったが、FSはラフマニノフの『鐘』と『クロノス』を使ったプログラムをダークカラーの衣装で一抹の妖しさえ漂わせながら演じ、持ち前の大人っぽさを生かした見事なノーミスの演技を見せた。


4位は昨シーズン全中優勝の岡田芽依。SPとFS共に安定した演技を披露。

持ち越しのFSは美しい衣装を身にまとい『マレフィセント』の妖しさと優雅さを巧みに表現していた。

5位はJGP初戦ラトビア大会に出場予定の櫛田育良。

キュートな衣装に身を包みSPは『SWAY』のリズムに乗ってダンサブルに演じたかと思えば、FSは昨シーズンに引き続き『The Little Prince』で美しいバラの妖精になりきった。

他には8位の和田薫子がそのよく伸びるスケーティングとバリエーション豊富なスピンでひときわ目を引いた。

和田はJGP2戦チェコ大会にエントリーしており、国際舞台デビューが楽しみだ。



シニア男子


シニア男子は5人が出場。

昨年本大会2位の佐藤駿がSP85.50、FS140.34の計225.84で優勝した。

SPでは映画『Ladies in lavender』に相応しいラベンダー色の衣装に身を包んで現れた佐藤。6月にDreams on Iceで初披露したときよりさらに緩急を感じさせる演技が目を引いた。

振付師ギヨーム・シゼロンの美学が織り込まれたようなプログラムを指先まで意識の届いた表現で魅了。

4Lzの転倒はあったものの4T3T、3Aを鮮やかに決め首位に立った。

初披露となったFS『NOSTOS』はジャンプの乱れが続いたものの、初の実践投入となった4Loをステップアウトになりながらも着氷させた。

 

2位は今季国内シニア参戦となる中村俊介。

SPはDreams on Iceでも披露したバックストリート・ボーイズメドレー。

中村にとってはおそらく新境地となるポップロック調のダンサブルなプログラムだ。

足を上げる振り付けなどカッコよさを前面に出した振付が印象的で、世界的に人気を博したボーイズグループの著名曲を今後どのように中村流に演じて行くかが楽しみだ。

FSは『Io Ci Saro』。

冒頭の4Tは両足での着氷となってしまったが、中盤の3Fで少し体勢が崩れた以外は要素の減点の無いまずまずの演技だった。

中村もJGPでは初戦ラトビア大会に出場予定。

国内シニアで戦う経験はJGPの舞台においても良い影響を与えることだろう。


3位は友野一希。今季振付師を一新して新たな挑戦に挑む友野。

SPはシェイリーン・ボーン振付の『Tshegue』。本人と相性の良さそうなリズム感にあふれたプログラムで、特に頭の上で手拍子を叩く仕草が印象的だった。

ローリー・ニコル振付のFSはジョン・バティステの楽曲から成るメドレーでジャズテイストを含む小粋なプログラムだ。

演技終盤では突如戸惑いながら演じる様子が見られたが、これはどうやら音源の提出ミスという珍しいアクシデントだったようだ。

SP、FSともジャンプの着氷に苦しみ、点数としては振るわなかったが、どちらも完成したら一気にハマりプロになりそうな予感もあるのでシーズンを経ての進化をぜひ今後の楽しみとしたい。


なお、本大会にはアメリカ代表選手である樋渡知樹もオープン参加という形で出場した。

SPはJames Brownの『Superbad』、FSは『るろうに剣心最終章』OSTでどちらのプログラムにおいても4Tをきれいに着氷させるなど調子の良さを伺わせた。

昨季より木下京都アイスアリーナを拠点としている樋渡。

演技中は側で見守るリンク関係者からの応援もひときわ大きかった。

樋渡は今週末にチャレンジャーシリーズのCranberry Cupに出場。

SPが終了した時点で2位につけており、出場前に良い調整ができたのではないだろうか。



シニア女子


昨年木下アカデミーに移籍、今回この大会に初出場となった千葉百音がSP64.51、FS131.79の計196.30で初優勝を飾った。

SPはケイトリン・ウィーバーが振付を手掛けたドナ・サマーの往年の名曲『Last Dance』。ピンク色の衣装とポニーテールの髪型が曲調によく合っており、明るさと快活さが魅力の新プロだ。

2Aのあとのバックスパイラルやタノフリップなど特徴的な要素を美しく決め、終始笑顔を携えながら溌剌とした中にも洗練された演技を披露した。

FSは一転ローリー・ニコルによるクラシックのプログラム。

ワンショルダーのシックで大人っぽい赤色の衣装に身を包み、オーケストラとピアノによる協奏曲『Ariana Concerto No.1』の音色に乗せて美しいスケーティングを見せながらノーミスの演技で締めくくった。


2位は昨年の覇者である吉田陽菜。

SPはブノワ・リショー振付の『Dark Clouds』で、奇しくも島田麻央のFSと同じくクリストファー・ティンによる楽曲が使われている。

座ったポーズから演技が始まるなど冒頭からひと味違った演出。

その後も至るところに個性的な振付が散りばめられていた。

薄暗い雲をたたえた空のような水色ベースの衣装を身にまとった吉田は、ブルガリアの伝統的な旋律を基調とした女声合唱に身を委ね、ほぼノーミスで滑りきった。

不思議な世界観が漂うこのプログラムが今後どのように進化していくか楽しみだ。

FSは『苦悩する地球人からのSOS』。

フィギュアスケート競技ではよく使われる楽曲だが、本プログラムは女性ボーカルバージョンで、ダークグリーンの衣装と相まっていちだんと大人っぽくしとやかな雰囲気を醸し出していた。

終盤のLzは回転が足らずに転倒してしまったが、その他の要素はしっかりまとめた。

また、ベスティスクワットイーグルやハイドロといった彼女らしいムーブメントも健在でプログラムに華を添えていた。


3位は住吉りをん。SPはミーシャ・ジー振付の『Love is a funny thing』。

衣装は紫と水色という美しい色の組み合わせで住吉本人によく似合っていた。

単独ジャンプの3Lzで転倒してしまったがその他の要素はプラスのすべて加点がつく内容で、フリーレッグの余韻ある流れや情感たっぷりのステップで大人の愛の物語を雰囲気たっぷりに演じた。

FSはシェイリーン・ボーン振付の『Adiemus』。

4Tは惜しくも両足着氷となってしまったが、森羅万象を表すような色とりどりの衣装に身を包み、長い手足を存分に生かしながら幻想的で神秘的な雰囲気のプログラムを美しく表現していた。



競技終了後には新たにカップルを組んだジュニアアイスダンス組のお披露目もあった。

ジュニア女子で活躍し昨年の本大会では3位にも入った柴山歩と、昨季まで東京ブロックでシングル選手として出場していた木村智貴が今季からアイスダンス競技に参戦することとなった。

インパクトのある美しい黒の衣装で現れた2人はFD『Night Waltz/Send in the clowns』をエレガントに披露。

結成されて間もないにもかかわらず既に息のあった様子を見せていた。

東京での夏季フィギュア大会がデビュー戦となる2人。

シングル時代からスケーティングや表現に光るものがあった2人だけに、カップル競技での今後の活躍も非常に楽しみだ。

 

 本大会を皮切りに2024―2025年フィギュアスケートはいよいよ本格的にシーズンに突入する。

ミラノ五輪事前合宿に参加するシニア選手もいれば夏の風物詩であるもう一つの大きな大会である滋賀のサマーカップに出場の選手もいる。

また下旬にJGPを控えているジュニア選手もいる。

各選手シーズンの目標がどのようなものであれ、それぞれ本大会から何らかの収穫を得て、思い描く充実したシーズンにつなげて行くことを祈念したい。


(紙面の都合上敬称は省略させていただきました)


Fumiko.M

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